映画『しゃぼん玉』 これこそ日本映画の真骨頂だ

2017年に公開された映画『しゃぼん玉』

決して派手ではありませんが、優しさと痛みが心に染みわたってジーンと熱くなる秀作です。

「邦画はあまり観ない…」という方にもぜひ観ていただきたい!

作品概要

「凍える牙」で直木賞を受賞した人気作家・乃南アサの同名小説を、『バッテリー』で多数の新人賞を受賞した林遣都とベテラン女優・市原悦子の共演で映画化。

強盗や傷害などの犯罪に手を染めてきた孤独な青年が、逃亡先の村で出会った人々との交流を通して再生していく姿を描く。

人気テレビドラマ『相棒』シリーズの東伸児が劇場初監督を果たした。

あらすじ

親に見捨てられ人生を諦めた青年・伊豆見(林遣都)は、通り魔となって老人や女性を襲い、強盗を重ねていた。逃亡の果て宮崎県の山深い村に足を踏み入れた彼は、けがをしたスマ(市原悦子)を助けたのが縁で彼女の家に居候することに。

当初は金を奪って逃げようと考えていた伊豆見だが、スマや村人たちの温かさに触れるうちに、失いかけていた人間性を取り戻していく。

そんなある日、10年ぶりに村へ帰ってきた美知(藤井美菜)と出会ったのを機に自分の犯してきた罪の大きさを感じた彼は……。

溢れんばかりの温かさ

「親の愛を知らずに育った都会の青年が、田舎で人の優しさに触れて人生を見つめなおす」というシンプルなストーリー。

派手な演出や大きな仕掛けはないものの、優しさに溢れた村人たちのキャラクターと温かい空気感が確実に心に染み入ります。

スマを演じる市原悦子さん。

本当にその地で長年過ごしてきたかのような自然な演技は流石としか言いようがありません。

見ず知らずの青年・伊豆見を「ぼう」と呼び、まるで孫のように世話をする。

伊豆見の過去を詮索するようなことも一切せず…。

その包み込むような愛と優しさが、尖った心をじわじわと溶かしていくのです。

スマばあちゃん以外の村人たちの存在も素晴らしい。

特に、シゲじい役の綿引勝彦さんは名脇役ですね。

伊豆見が何かしらの事情を抱えていると気付きながら、何も聞かずに面倒を見る。

厳しくて怖いシゲじいに弱音を吐きながらも付いていく伊豆見。

この2人の掛け合いがおじいちゃんと孫、そして師匠と弟子のようでもあり微笑ましい。鑑賞中、何度もにっこりとしてしまいました。

美しすぎる自然

舞台となった田舎町の美しい風景も見どころです。

山裾に広がる畑を見下ろすスマばあちゃんの家。早朝の雲海や天気のいい日の木漏れ日。

雄大で清らかな自然は、それだけで人を穏やかな気持ちにさせてくれます。

撮影地となったのは、宮崎県北部に位置する「天孫降臨ひむか共和国」。

延岡市・日向市・門川町・諸塚村・椎葉村・美郷町・高千穂町・ 日之影町・五ヶ瀬町の9つの市町村エリアからなる“国”で、

「世界農業遺産」にも認定される豊かな自然と「食」の愉しみが広がる場所として知られています。

劇中でも、自然の恵みがたっぷり詰まった素朴な料理の数々が出てくるのですが、それがとにかく魅力的。

普通の大きなおにぎりでさえ特別おいしそうに見えてきます。

 

こんな素敵な環境に身を置いたら、きっと誰でも心を解き放ちたくなるはず。

そう思えるほど、この作品の景色と村人たちのキャラクターには説得力があるのです。

繊細な演技力が光る林遣都

脇を固めるベテラン俳優陣の演技力は流石なものですが、主人公を演じる林遣都さんの演技も光り輝いています。

都会から村にやってきたばかりの頃のよそ者っぷり、そして荒み切った心が少しずつ柔らかくなっていく演技が秀逸。

林遣都さんの繊細な感情の表現は、他の作品を観ていても見事だと感じていましたが…、特にこの役はその魅力が最大限に生かされていたように感じます。

大人になりきれず不安定に揺れる心で、懸命に自分と向き合う若者の姿。

林遣都さんにしかできない役柄と言ってもいいのではないでしょうか。

優しさが教えてくれること

こんな理想郷のような村は実際に存在しないかもしれません。

そう考えると、ある意味ファンタジーの世界。

それでも、美しい景色と温かい村人たちの優しさには素直に癒されて胸が熱くなります。

 

「優しさで人は変われる」なんて綺麗事のようなことを信じたくなる。

魔法のように、疲れた心を洗ってくれる隠れた名作です。