『生きてるだけで、愛。』感想 苦しくも共感できる傑作が誕生した。

確かな演技力が評価されブレイク間近の女優・趣里さんと、日本で知らない人はいないであろうカメレオン俳優・菅田将暉さんの共演で話題となっている作品『生きてるだけで、愛。』
無事に心揺さぶられました。

あらすじ

過眠症で引きこもり気味の寧子(趣里)は、恋人でゴシップ雑誌の編集部勤務の津奈木(菅田将暉)と一緒に住んでいる。
感情のコントロールが苦手な彼女は、そういう自分に本気で向き合おうとしない津奈木に苛立っていた。
ある日、津奈木の元恋人の安堂(仲里依紗)が現れ、寧子を追い出すために、勝手にカフェバーのアルバイトを決める。渋々働きだした寧子だが、少しずつ店の人に心を開くようになり……。

苦しい

冒頭から苦しいシーン、見ていられないようなシーンが続きます。
過眠症で引きこもり。さらには躁鬱気味のヒロイン・寧子。とにかく感情の起伏が激しくて、画面越しでも恐怖のようなものを感じました。
正直言って寧子は“社会から排除された人間”です。
でも、そんな寧子の事を優しく、静かに見守る彼氏の津奈木…。良い奴だよ本当に
構ってくれるだけでもありがたいことなのに、寧子は津奈木にまで怒鳴り散らし、理不尽な怒りをぶつけます。

んー、見ていられませんでした。
だって「身に覚えがある」から。八つ当たりしているのなんて自分が一番分かっているんです。
寧子のような状況ではありませんが、私だって誰かに八つ当たりをしたことが何回もあります。
本当は相手に受け入れられたいだけなのに…。普通に優しくしたいだけなのに…。
それが出来ずにもがいて苦しんでいる寧子を見ているのが辛かったです。

嫌な女であることは間違いないのに、心の中で「分かるよ、寧子」と言っている自分がいました。

放っておけない

主要キャラである寧子と津奈木
最初は「なんでこの2人が付き合って、んでもって別れないんだ?」と誰もが思うはず。
気持ちの抑制が出来ずに当たり散らす寧子
常に冷静で自分の気持ちを表に出さない津奈木
面白いように対照的な2人なのですが、映画が進むと“所々で共感しあっている”ことが分かってきます。

そして観賞している我々も、この2人と通ずる部分が絶対にあるはず。気付いたら寧子と津奈木が他人とは思えない感覚に陥ります。
放っておけないんです。画面の奥で必死にもがき、生きる2人を放っておくことなんて出来ない。
自然に「頼むから幸せになってくれ」と懇願していました。

邦画史に残る演技

本作の魅力をグッと引き上げているのが、何と言っても役者さん達の演技力です。
メインとなる趣里さん、菅田将暉さん以外の方たちも素晴らしく、映画の世界観を一つも壊していませんでした。
ですが、やっぱり趣里&菅田将暉が群を抜いて凄かった

趣里

よく「憑依型の役者」という表現を用いることがありますが、朱里さんも正しく憑依型女優の一人です。
過眠症&引きこもり&躁鬱気味
このネガティブ3点盛りセットの難しい役柄をよくぞ演じきった!冗談抜きで日本アカデミー賞取ってほしいです。

本作のような内容だと、役者に求められるのは「どれだけ“演技している感”を見せないか」だと私は思っています。
見ている側がまるでドキュメンタリーを観ているかのような感覚になることが重要なのです。

その点、本作の趣里さんには文句の付け所が一つもありません。
都会の一室で苦しみながらも生きている寧子は趣里さん以外に演じることが出来なかったのではないでしょうか。

菅田将暉

いや~、やっぱりこの人は凄い。怪物です。

こういう“陰の菅田将暉”を見たかったんですよ私は!
いつもは体から溢れ出ているエネルギーを敢えて抑え込み、見事に津奈木というキャラになりきっています。

人間が持つ“静と陰”の部分を多く持つ津奈木というキャラがこんなにハマるとは…。
最近は明るいキャラを演じることが多いように思える菅田さんですが、実に勿体ない!「演技の幅」なんて言葉、この人に使うのは失礼ですね。
何にでもなれちゃいます。

趣里さんと菅田将暉さん。もしかしたら今日本で一番演技が上手い女優と俳優なのでは?
『生きてるだけで、愛。』を観た後だと本気でそう思います。

奇怪を超えた純愛

簡単に言うと寧子は「やべー奴」ですし、寧子と津奈木の恋人関係は相当エキセントリックなものです。
津奈木の元カノである安堂さんが言っていることのほうがよっぽど正論ということは観賞しながらも充分分かりきってました。

それなのに、時間が進むほどに寧子と津奈木に共感し、この2人の幸せを願っていました。
終盤に見せる「愛の形」を目の当たりにした時、私は思いました。
「あぁ、これってこんなにもピュアなラブストーリー」だったんだと。

あのラストシーン。とにかく監督のセンス・才能が溢れ出ています。恐ろしいくらいに。
監督を務めた関根光才さんは今作が長編デビュー作とのこと。
これからの作品が一層楽しみになる出来栄えにひたすら拍手です。

現代ならではの心の苦痛、そして愛と幸せを描いた本作
絶対に観てほしいです。この心の叫びはきっと突き刺さるはず